バスケットボール選手やバレーボール選手のフィジカル強化に携わる際によく活用するのが、プライオメトリクス(プライオメトリックトレーニング)です。
プライオメトリクスは、いわゆる『身体のバネ』を強化するために用いられるトレーニングで、ジャンプトレーニングもこのプライオメトリクスの一部です。
プライオメトリクスを日々の練習とフィジカルトレーニングに取り入れることで、今よりもさらに数センチ高いところに、手が届くようになることが期待できます。
プライオメトリクス(プライオメトリックトレーニング)とは?
プライオメトリクスとは、筋肉・神経・腱の機能を発達させるためのトレーニング方法のひとつとして知られています。
筋肉が急激に引き伸ばされることで、より大きなパワーが出るという身体の仕組みを活用した方法であり、実際に、多くの競技スポーツのトレーニングとして取り入れられています。
プライオメトリクスは上半身、体幹、下半身と部位を問わず目的に応じた強化が可能で、ジャンプトレーニングは主に下半身のプライオメトリクスとして活用されています。
プライオメトリクスの効果
プライオメトリクスの最大の効果は、『瞬時に大きなパワーを発揮する能力』を向上させられることです。
スポーツ科学の世界では『爆発的パワー』と呼ばれるこの要素は、
ジャンプ、ダッシュ、スイング…
スポーツで必要とされるあらゆる瞬発的な動作の強化に役立つことが知られています。
プライオメトリクスを継続的に行うことで、バスケットボール選手なら、より高い場所でリバウンドをとったり、シュートレンジを広げられることが期待できます。
バレーボール選手なら、スパイクの最高到達点が高くなったり、スパイク、サーブの球速がより速くなるかもしれません。
そのほかにも、よりスピーディでパワフルなプレーを行えるようになることが、プライオメトリクスを継続的に行うことのメリットです。
代表的なエクササイズ
プライオメトリクスは様々なエクササイズがあります。ジャンプトレーニングは主に下半身のプライオメトリクスです。
バウンディングという、前方に向かって飛び跳ねるように走っていくエクササイズも下半身のプライオメトリクスのひとつで、
ジャンプが垂直方向に対する爆発的パワーの向上エクササイズである一方で、バウンディングは水平方向への爆発的パワー向上が大きく見込めます。
もし、あなた自身やあなたの指導しているアスリートがジャンプ力を伸ばしたいのなら、垂直方向にジャンプするようなエクササイズをより積極的に行ったほうが効果が高いかもしれません。
ただもし、スプリントスピードをより速くしたいのなら、バウンディングのような水平方向への爆発的パワーを強化しやすいエクササイズに熱心に取り組むほうが良いでしょう。
どのような要素を鍛えたいかによって、エクササイズを選択していくことが効果に大きく関わります。
そのため、より自分の競技のパフォーマンス向上に直結しそうなエクササイズを選ぶことももちろん、プライオメトリクスは大変強度が高く、身体への負担も高いため、強度や回数の設定は専門家の指導のもとで行われることをおすすめします。
強度がそのアスリートの体力に見合っていない場合、強度が低すぎれば効果を感じることができず、強度が高すぎれば、正しくエクササイズを行えないどころか、怪我のリスクが高くなってしまうからです。
プライオメトリクスを行う際の注意点
プライオメトリクスを導入する際は、前述した通り、強度の設定がもっとも注意すべき点です。
瞬時に大きなパワーを発揮することが求められるプライオメトリクスは、常に怪我と隣り合わせのトレーニングといっても大げさではありません。
こんな表現をしてしまっては、多くの人にプライオメトリクスの処方を嫌がられてしまいそうですが、それだけプライオメトリクスを実施する際は慎重になったほうが良いでしょう。
大きな効果を得られることに間違いはありませんが、だからといってすぐチームに導入することはすすめられません。
プライオメトリクスを導入するのは、基礎筋力が最低限備わっていることが大前提です。もし、基礎筋力が乏しいにもかかわらず、いたずらにプライオメトリクスに手を出してしまうと、筋肉や腱の損傷につながる怪我を招くことになります。
もしまだ最低限の筋力が備わっていないときは、ウエイトトレーニングによる筋力強化を行うだけでも、パワーの向上が見込めます。そういうときは、筋力強化から優先的に行い、プライオメトリクスは、比較的負荷の低いエクササイズを選んで行うとリスクを軽減できます。
ウエイトトレーニング(レジスタンストレーニング)との相性
プライオメトリクス単独で実施するより、ウエイトトレーニング(レジスタンストレーニング)も合わせて実施するほうが、プライオメトリクスで得たい『爆発的パワーの向上』はより大きくなることが知られています。
たとえばジャンプ力を向上させたいのなら、タックジャンプ(空中で両膝を抱え込むようにして行うジャンプ)や
デプスジャンプ(高めの台から地面に跳び降り、その反動を使って再び瞬時にジャンプするエクササイズ)などのプライオメトリクスだけを行うだけでなく、
それと並行して、スクワットなどのレジスタンストレーニングを行ったほうが、垂直跳びの高さはより向上します。
成長期にある中高生や、レジスタンストレーニング初心者で高重量を扱えない選手だった場合は、自体重やわずかな負荷でじゅうぶんであり、プライオメトリクスも強度に注意して行えば実施は可能です。
レジスタンストレーニングもプライオメトリクスも、ともに強度の高いトレーニングであることに変わりはないため、毎日行う必要はありません。
もしまだアスリートがトレーニングに慣れていなければ、それぞれのトレーニングを別の日に行う、ということもあります。
できるだけ体がフレッシュな状態でトレーニングをこなせたほうが、効果は高くなります。
爆発的なパワーを向上させるトレーニングなので、量をこなせばいいというものではなく、一回毎のトレーニングへの集中力が問われるトレーニングがプライオメトリクスです。
考慮すべき点を守りながら行えば、プライオメトリクスはアスリートのパフォーマンスをより高くするための手段として活用できます。